私家版「『古畑任三郎』ひとり総選挙」

◆アトロク「『古畑任三郎』ひとり総選挙」

https://www.tbsradio.jp/a6j/

TBSラジオ「アフター6ジャンクション」にて、6月10日(木)に、ベースボールベアーの小出祐介さんが田村正和さんの死去をきっかけとして、「『古畑任三郎』ひとり総選挙」と言う企画を実施。小出さんの『古畑任三郎』ベスト回を発表していました。

ちなみに「ひとり総選挙」とは、ライターのてらさわホークさんが同ラジオ番組で定期的に実施していた個人的なランキング発表の企画でした。映画秘宝のゴタゴタによってレギュラーコーナーだった同企画が音沙汰が無くなっていた中で今回小出さんの企画として実施されました。

さて、今回の「『古畑任三郎』ひとり総選挙」。正直言って大変がっかりした企画でした。企画の中で小出さんが説明されていましたが、小出さんは今回"自己肯定感"を切り口としてベスト3を上げてらっしゃいました。その大半はシーズン3。ご本人もトリックなどを基準にすると異論もあるだろうと仰っていましたが、その通りです。私はシーズン3は『古畑任三郎』における『新・刑事コロンボ』であると考えています。詰まるところ、イケていないのです。初期にあったミステリーとしての深淵さが無いのです。そもそも『古畑任三郎』に自己肯定感を求めるのか、心底ガッカリしました。

ガッカリした勢いで、私も「ひとり総選挙」をしたくなり、今回ブログを開設した次第です。

◆私的「『古畑任三郎』ひとり総選挙」

第3位 シーズン1「殺しのファックス」、「殺人公開放送」

第2位 シーズン2「ニューヨークでの出来事」

第1位  シーズン1「さよなら、DJ」

◆第3位「殺しのファックス」、「殺人公開放送」

劇場型犯罪的なシーズン1の2つのエピソードを第3位としました。

前者は売れっ子小説家の幡随院(笑福亭鶴瓶)が浮気相手と結婚する為に妻を殺害。殺害後、誘拐を偽装する為に警察と自身が一緒に居るタイミングでパソコンから時間指定でFAXを送信し、アリバイを確保し完全犯罪を目論みますが、その意図に気付いた古畑と幡随院の詰めの甘さによってとことんいじめ抜かれると言うエピソード。笑福亭鶴瓶が演じる意味と言うか意義のある意地悪さでとても面白い。

後者は能力に疑問を向けられている超能力者である黒田(石黒賢)は、公開収録番組に向けて河川敷で超能力の"タネ"を仕掛けていたが、偶然通りがかったチンピラに絡まれ正体を気付かれて偶発的に殺害、そのまま公開収録に臨みますが、公開収録の観覧席に古畑があり、彼もまた古畑に虐め抜かれます。白眉は『刑事コロンボ』の「2枚のドガ」を彷彿とさせるオチ。公開放送と言う舞台立てのライブ感も楽しい。

古畑任三郎と言うキャラクターの頭の良さと嫌らしさを十二分に発揮していて、当時の三谷脚本らしい軽やかなユーモアに溢れていた。またどちらも星護の演出が小説家の策略の崩壊、超能力者の如何わしさを見事に表現されていて、古畑任三郎と言うドラマのイメージを確固たるものにしたと私は考えています。

◆第2位「ニューヨークでの出来事」

古畑任三郎』では唯一のいわゆる安楽椅子探偵もの。第1回「死者からの伝言」の容疑者小石川ちなみの新居に遊びにやってきた古畑が長距離バスの車中でたまたま隣に座った在米日本人の女性、のりこ・ケンドール(鈴木保奈美)との雑談から彼女の"友人"の殺人の話を聞く事になります。

彼女の友人の夫が毒物によって亡くなったと言う。どのように彼女は夫に毒物を盛ったのか。何故そのような事態に至ったのか、三谷幸喜的な日本的な小ネタ満載の会話劇の中で炙り出されて行く過程は、『古畑任三郎』の真骨頂だと思います。

夜中にニューヨークに向かう長距離バスの車内で繰り広げられる殺人に纏わる会話劇は、スリリングでありつつも、ワクワクしてしまうミステリー的な探究に満ちています。こう言う話をもっと観たかったです。

◆第1位「さよなら、DJ」

第1位は深夜ラジオ番組のDJ、中浦たか子(桃井かおり)、通称おたかさんが恋人を奪った付き人の女性を生放送中に殺害。

事前にストーカーを装った脅迫状を自身宛に送付。ストーカーによって付き人が彼女と間違われて殺害されたように装っていたが、彼女のマネージャーは脅迫状を警察に相談しており、当日聴取の為にラジオ局に古畑がやってきていました。当然の流れとして、ラジオDJのおたかさんと古畑との丁々発止のやり取りが繰り広げられます。

その中で越路吹雪の「サントワマミー」が印象的に用いられます。深夜ラジオの生放送中の殺人事件、それに出くわした古畑とのラジオ共演、嫌らしく追い込んでいく古畑の策略、そして三谷脚本らしい日本的な小ネタの数々。当時の三谷脚本は本当に面白かった。アメリカ的なウェルメイドを志向しつつも、日本的なギャグを入れないと気が済まなかったと感じます。赤い洗面器の女ネタなど三谷作品に共通する仕掛けも視聴者が共犯者になれたようで嬉しかった事を覚えています。

◆最後に

ここまで書いてきて、私が『古畑任三郎』のどう言った部分が好きなのか分かってきました。それは事件、又は謎解きがリアルタイムで進行する、それも夜遅くに進行するエピソードが好きだったと言う事です。

今『古畑任三郎』を振り返って見ると、動機はありきたりであり、犯人のトリックも大半は大袈裟なトリックでは無い事が多いものでした。トリックの奇抜さではなく、古畑の罠や気づきの部分にミステリー的な面白さはあったように思います。

でも、やはり『古畑任三郎』の最大の魅力は『刑事コロンボ』譲りの社会的な成功者と刑事によるウイットに富んだ会話劇にあると思います。それは三谷幸喜の脚本の役割も勿論大きいウエイトを占めますが、古畑任三郎古畑任三郎たらしめたのは田村正和の芝居であると痛感しました。

人間的でありつつも冷徹であり、かと言って優しさもあるが意地悪さを隠さない深雑なキャラクターは、ピーター・フォーク(そして小池朝雄)のコロンボに勝るとも劣らない複雑さ、唯一無二のキャラクターだと思います。

シーズン2以降、『古畑任三郎』は西園寺や向島、花田などキャラクターが増え、演出が変わり、作品内でも古畑任三郎を神格化するような台詞が出てきたり、著名人を著名人そのままの役で出すなど『古畑任三郎』ブランドが大きくなり過ぎた弊害が現れてしまい、当初の日本初の本格倒叙ミステリードラマでは無くなって行ったと感じています。個人的には『新・刑事コロンボ』のように画竜点睛を欠く、魂のないものになってしまった、と。

今一度、原点回帰した『古畑任三郎』が観てみたかったです。毎週水曜日の『新世紀エヴァンゲリオン』と『警部補・古畑任三郎』を観ることだけが子供の頃の楽しみでした。田村正和さん、古畑任三郎のご冥福をお祈りいたします。ありがとうございました。